#11 超劣化になろう
「ボクノートの形態模写か?」
つぶやく声に、当然返事はない。
私は小さく嘆息した。
「小説とかどう?」
ブログの編集担当から提案されたのは二日前、毎週金曜に更新しているブログのネタがいよいよ尽きてきた時期だった。
「いや小説は、さすがにノウハウが…」
今思い返しても拙い躱し方である。ドッヂボールクラブで輝いていた頃の俊敏さは見る影もない。
「だから面白いんじゃん。別にガチのやつは期待してないし、短くていいから。それじゃ、よろしく。」
編集担当は嘆息を交えつつ矢継ぎ早に語ると、 強引に話を終わらせた。対案も何もない私に言えることはもう何もない、ただ粛々と従うのみである。
弱き者よ、汝の名は弱小ブロガーなり。
そうして、いざ小説を書こうとPCの前に座ってから数時間、びっくりするほど何も思いつかない。数時間経って抱えたものは紙くずですらなく、ただの虚無感だけだったというわけだ。
嗚呼、恨めしきundo機能。
目の前で回る排熱ファンの音が”自分の脳もこれくらい回してみろ”と言っているようだ。
「安請け合いするんじゃなかったな…」
私は観念したように嘆息すると、つたないタイピングで検索を始めた。
”小説 書き方 短編”
Googleとノイマンに申し訳ないとは思わないのか、恥を知れ、と心の中で自分を叱咤しつつ検索結果に目を通す。
◆ステップ1:不思議な言葉をつくる
◆ステップ2:不思議な言葉から想像を広げていく
◆ステップ3:想像したことを短い物語にまとめる
ステップ1の「不思議な言葉」とは、日常生活では決して耳にしないような言葉のことです。
「発電に使えるタコ」や「ぽかぽかする傘」などが例として挙げられています。
「なるほど、そういうアプローチもあるのか。」
ひとまず、何でもいいから一つワードを出してみることにした。それが、続くアイデアの呼び水になることもあるかもしれない。
「…”世界最強のパプリカ”」
———愕然とした。
もちろん、あまりに壊滅的なワードセンスに、だ。
”世界最強”というコスられ尽くした四字熟語に加え、確実に米津何某の影響で記憶の上層に落ちていた”パプリカ”をチョイスする自分の浅薄さ、浅慮さを呪った。
もはや、自分の中におよそ才と呼べるものが存在しないことは、火を見るより明らかであった。いや、”火を見る”どころか、燃えカスを目の当たりにしたかのような虚脱感に囚われてしまってすらいる。
「ごめん、ちょっとタイム。」
そうつぶやき、思考のリセットを図ろうと試みるが、なおも頭の中には絶望感が残留して———
「いったん止まってもらっていい?」
あ、はい。
「あのさ、ちょっとその、強くない?」
“強い”、とは?
「ええと、俺への当たりが。」
すみません、一応”発破をかけつつサポートしていく”、というお話でしたので。
「いや、それはそうなんだけど、センスをこき下ろすくだりとかちょっとしつこいというか、苛烈すぎるというか。あと嘆息多いね。」
なるほど、ご依頼のニュアンスをくみ取れず申し訳ありませんでした。
「まあ俺も説明不足だったかな、そこはごめん。中盤までは結構いい感じだったから、ほんとに。」
ありがとうございます。どうしますか、検索の当たりからやり直しますか?
「そうね、そうしてもらえると助かる。」
「安請け合いするんじゃなかったな…」
私は観念したように新しいウインドウを開き、つたないタイピングで検索を始めた。
”小説 書き方 テクニック”
Googleとノイマンに申し訳ないとは思わないのか、恥を知れ、と心の中で自分を叱咤しつつ検索結果に目を通す。
叙述トリックとは、ある事柄や一部の描写をあえて伏せることによって、読者に事実を誤認させるテクニックのことです。
「なるほど、そういうアプローチもあるのか。」